傀儡の恋

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 何故、彼と話をしようと思ったのか。
 それは自分でもわからない。
 ただ、どうしても彼と話をしなければいけない。そうささやく声が自分の中にあったのだ。
 そして、その声に従った。
 部屋を抜け出すと海岸への道をたどる。
 自然が保護されているこの島では該当といったものは孤児院を兼ねている館の周辺にしかない。  だから、この道を照らしている明かりは月だけだ。
 だが、コーディネイターである自分にはそれでも十分だと思う。
「……僕は作り物だから……」
 そのせいかもしれない。そんなことも考えてしまう。
 ならば、この感情は何なのか。
 どれだけ優秀なAIとプログラムを用意しても、機械が感情を持つことはなかった。
 だが、自分には感情がある。
 この差は何なのだろうか。
 いくら考えても答えが出ない。
 もっとも、ラクス達に相談すれば『それはキラが人間だから』と言う答えが返ってくるだろう。いや、実際に何度もそう言われた。
 だが、それは彼らが自分に近しい存在だからだ。
 他の者達はきっと、別の答えを口にするだろう。
「やはり、あのとき、僕も消えるべきだったんだ」
 作られた者同士、戦争の終わりが見えた時点で退場するべきだった。そうすれば、誰も苦労せずにすんだはずだ。
 もちろん、親しい者達――特に育ててくれた両親――は悲しんだだろう。それでも悲しみはいずれ薄れていくものだ。二人ならばなおさらだと思う。
 だが、現実には自分のせいで二人は離れ離れに暮らしている。
 カガリが気を付けてくれているとはいえ、ハルマはかなり不安定な立場だ。それでも、そばにラミアスやマードックがいてくれるから危害だけは加えられないだろう。
「もっとも、こんなことは言えないけどね」
 誰に言っても不快感を与えてしまうに決まっている。もちろん、彼にもだ。
 それでも自分のことを知らない彼ならば、他の者達には言えないことも口に出せるのではないか。
 いや、それでなくても、あのどこか心配そうな視線を向けられないだけでもいい。
 つらつらとそんなことを考えていたからか。
 気がついたときには目的地まで後少しという所だった。
 そのまま進んでいけば、すぐに海岸へと出る。
「……明かりがついている……」
 ボートに、と呟く。
 ここまで来たところで、彼らが眠っていたかもしれないと気がついた。
 起きていてくれてよかった、と思う気持ち半分、眠っていてくれら方がよかったかもしれないとも思う。
 今になって、彼に何と言って声をかければいいのか、わからないのだ。
 やはり、このまま戻ろうか。
 そう考えてきびすを返そうとしたときだ。
「どなたですか?」
 静かな声が耳に届く。
「……起こしてしまいましたか?」
 今更ながら、自分の行動が信じられない。何故、こんなことをしてしまったのだろうか。そんなことを考えながら、おずおずと相手にそう言い返す。
「君は……」
 それに彼は少しだけ驚いたような表情を作る。
「すみません。もう一度、あなたに会わなければいけないような気がして……」
 それはどうしてだろうか。心の中でそんな疑問を呟いたからか。
「あなたは僕が知っているある人に似ているような気がするから」
 自然にこんなセリフが唇からこぼれ落ちた。
「……自分に、ですか?」
 彼は目を丸くしながら言葉を口にする。
「ご迷惑だとはわかっていたのですが……」
 いきなりあんなことを言われて気持ちのいいものではないだろう。それでも自分の気持ちを抑えられなかった自分は非難されても仕方がないだろう。
「……もう一人は眠っていますから、少しだけならば……」
 しかし、彼はこう言ってくれる。
「すみません。あなたの睡眠時間が減りますね」
 こう言うと、慌てて話を切り上げようとした。
「少しならかまいませんよ」
 どこまで本心なのだろう。それでも彼の笑みを見ていると少しだけ安心できる。
「ありがとうございます」
 だから、キラも笑みを浮かべて見せた。

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最遊釈厄伝